フリードライヒ運動失調症 / Friedreich Ataxia
フリードライヒ運動失調症 / Friedreich Ataxia
フリードライヒ運動失調症は、徐々に神経系を冒す遺伝性疾患で、筋肉の衰弱や言語障害や心臓疾患を引き起こします。最初の症状は、通常、歩行失調です。運動失調症患者の多くは、やがて車椅子の生活を強いられます。
この疾病は、1860年代にこの病状を最初に記述した医師ニコラス・フリードライヒの名をとって付けられました。運動失調症とは、各種の疾病や状態に見られる協調障害や不安定状態を示す語です。フリードライヒ運動失調症では、脊髄内の神経組織および腕や脚の動きを司る神経が退化します。脊髄が細くなり、神経細胞から、神経中のインパルス伝達を補助する絶縁体(ミエリン)が失われます。
米国では、フリードライヒ運動失調症は、5万人に1人の割合で発症します。男女とも同じ割合で発生します。通常は、5歳ないし15歳の年齢で発症しますが、早ければ18ヶ月、遅ければ30歳代で発症することもあります。
初期の徴候として、不随意のつま先屈曲、足の内反(足が内側に曲がる)、などがあります。不随意に眼球が動くという症状もよく見られます。フリードライヒ運動失調症患者のほとんどは、脊椎側湾症(脊椎が片側に曲がる)を発症し、重症の場合、呼吸困難になることもあります。
その他の症状として、胸の痛み、息切れ、動悸が挙げられます。医師は、病歴を調べ、完全な身体検査を含む慎重な臨床診断を行い、フリードライヒ運動失調症を診断します。筋電図(EMG)や遺伝試験などの各種試験が行われることもあります。
現在のところ、フリードライヒ運動失調症に関する効果的な治療法は確立されていません。しかし、患者の身体機能が改善されるように、症状の多くやそれに伴う合併症を治療することができます。
フリードライヒ運動失調症は、常染色体劣性遺伝として遺伝することがあります。家系にこの疾病がない患者の場合、新たな遺伝子変化(突然変異)が自然に発生したと見ることができます。フリードライヒ運動失調症は、X25またはフラタキシン(通常、神経系、心臓、膵臓に存在する蛋白質)として知られる遺伝子の突然変異が原因で発生します。フリードライヒ運動失調症患者では、この蛋白質が異常に少なくなります。
フリードライヒ運動失調症患者では、心臓組織中の鉄分が異常に高レベルであり、特に神経系や心臓や膵臓が遊離基(過剰な鉄分が酸素と反応して生成される)による損傷に対して敏感であるという研究結果が得られています。神経および筋肉細胞も代謝が必要であるため、遊離基による損傷に対して敏感になることがあります。フリードライヒ運動失調症の原因となる遺伝的突然変異が発見されたため、この疾病に関する研究努力に新たなはずみがつくようになりました。
出典: 国立神経疾患・脳卒中研究所、米国希少疾患協会